北海道食宝も今回で12回目となりました。
さて、今回お邪魔したのは、小樽の地で“地もの”にこだわって100年以上の歴史を持つ「有限会社 三浦水産」さんです。なぜそこまで地元産原料にこだわるのか?これまでの歴史の背景や商品開発に掛ける想いなど、気になる質問を伺ってきました。
同社は明治46年、創業者である初代が秋田から北海道の親戚を訪ねたことが縁となり、小樽の地で創業されました。はじめはニシンを、その後、スケトウダラや数の子などの加工と、北海道の水産物の歴史とともに歩んだそのお話は、まるで北海道の歴史そのものを学んでいるようでした。
様々な困難に直面する中でたどり着いた現在のスタイルについて、掘り下げてじっくりとお話を伺ってきました。
この記事の中では、地域振興への想いや、こだわりの“商品開発”について迫っていきたいと思います。
三浦水産の三浦社長にインタビュー
有限会社 三浦水産 代表 三浦一浩さん
取材:ライズ北海道 山本、後藤(撮影)
創業の経緯、ニシンとの係わり
ライズ北海道-山本)本日はお時間を頂き、ありがとうございます。では早速お話を伺っていきたいと思います。御社は明治43年の創業ということで100年以上の歴史をお持ちだとか。(取材日:2021年11月25日)
三浦さん)そうなんです。私で4代目、今年で111年目になります。
山本)長い歴史をお持ちなんですね。もともと北海道で漁業を営まれていたのですか?
三浦さん)いえ、初代は秋田の出身です。もともとは秋田で「オヒョウ※」加工の仕入れを中心に行っていたようです。その後、北海道で加工業ができないかということで親戚を訪ねてやってきました。最初は視察のつもりで来たようなのですが、北見など行くうちに北海道の地で始業するに至ったようです。
※オヒョウ…大型のカレイの仲間。日本近海では東北地方以北の各地と日本海北部で獲れ、刺身やムニエルなど多岐に亘って食される。
山本)なるほど。そこから加工業を営み始めたんですね。
三浦さん)いえ、最初は加工ではなく移出問屋のような形で始めたみたいです。昭和43年、小樽全体でニシンがよく獲れたということもあり、数の子を中心に加工を始めたのがきっかけです。
山本)確かに小樽のニシンは有名ですよね。
三浦さん)昔はニシンがこれでもか!というくらい獲れて、魚偏に非(ず)という形で「鯡(ニシン)※」と表現されていたようです。数え方も匹やグラムではなく「石(こく)」だったそうで、米と同じぐらいの量が水揚げされていたようですね。もはや食べるというよりも油を取るだけに使われていた時代もありました。
※ニシンの漢字表記…現在では、「鰊」の表記が一般的。
山本)私も実家が道南の漁師なので親から聞いたことがあります。当時の豊漁の時代はイワシなんかも大きな窯で煮て、巨大な団子状にして油を搾っていたと。搾りかすは肥料にしていたそうですね。
三浦さん)そうです。今では考えられませんが、それだけの獲れ高があったということですね。
転換~豊漁の時代から原料不足への対応~
山本)話は変わりますが、事務所内に多くの賞状が飾ってありますね!これはすべて代表が受賞されたものですか?
三浦さん)いえいえ、中央の賞状はウチの初代が貰ったものです。今の知事賞のようなものですね。ニシン自体、初代の時代は豊漁でした。ただ、その後は一気に漁獲量が減少したので、二代目は苦労したようです。結果、その後のタラコや数の子製造を始めるに至っています。
山本)確かにそれだけのニシンを獲って、資源を維持するというのは、難しいですよね。
三浦さん)実際に二代目は原料不足という問題に悩まされて一番大変だったかも知れません。本格的な加工を始めたのが二代目の時だったみたいですね。ニシンが獲れなくなれば必然的に数の子も獲れなくなりますから。そこで何とか窮地を脱しようと、それまでは国産一本だったものを輸入物に切り替えたそうです。アラスカ産の原料ですね。
山本)そこで一度、輸入物という路線を選ばれたわけですね。
三浦さん)ええ。小樽の雇用に関する考え自体が少し特殊で、いわゆる「季節労働者」という形をとらず、通年の雇用を守るという考えが強いんです。そうしたこともあり、何とか店と従業員を守らねばならないという背景もあったようですね。
山本)なるほど。そうした背景もあっての輸入原料ですね。
三浦さん)実際、この並びにも昔は12軒ほど同様の水産加工会社があったんですが、今ではウチともう1軒だけになってしまいました。昔ながらのタラコなどを作っているのは小樽市内ではウチだけですね。
地元産原料へのこだわりについて
山本)そして今の地元産原料へのこだわり。ここまで来られるのは相当なご苦労があったものと思います。
三浦さん)確かにそうですね。輸入物であれば、ある程度数が確保できると言うメリットがあります。ただ、私のこだわりとして「地もの(ジモノ)」を使いたいという想いが強いので、北海道産の海産物で何とか頑張っているという形です。
山本)道産の海産物はそれだけでブランド力・評価も高いですからね。
三浦さん)輸入物が大半を占めるようになった今、昔の数の子の方が甘かったと言う人も多いです。実際に私も道産を食べみて初めてその美味しさに気づくことができました。最近は知り合いの業者さんがNHKの取材を受けるなど改めて注目されていますね。
「Hotate de PON」の開発について
山本)道産のものにこだわった数の子ですか。美味しそうですね。相当お腹が空いてきました(笑)。そうしたコンセプトは、今回のノーステック財団開発支援商品である「Hotate de PON」にも通ずると。
三浦さん)おっしゃる通りです。「Hotate de PON」に関しては地元の祝津で獲れたホタテを盛り上げていこうということで開発しました。
山本)もともと小樽はホタテが有名でしたか?あまり「小樽=ホタテ」という印象が無いのですが。
三浦さん)そこなんです。ほとんど聞かないですよね。小樽という場所は、もともとは稚貝を育てる場所でした。ただそれだけじゃいかんと。そこから漁師の皆さんも頑張って養殖を進めていくようになりました。以前から小樽で育ったホタテは頑丈さが売りで、非常に評価が高かったんです。
山本)潮の流れが速くて岩場も多いですから、ホタテ養殖は相当な大変でしょうね。
三浦さん)そうでしょうね。そんな地元の漁師さんが苦労をして育てたホタテを加工していきたいということで様々なセミナーにも参加しました。「簡単に調理ができるもの」が好まれていて、特にその中でも“レンジ”で簡単に食べられるものが好まれているという話を聞いたんです。それなら作ってみようかということが開発のきっかけでした。
山本)確かにレンジだけで調理ができるのは魅力的ですね。ちなみにレシピの開発も代表自ら行われたのですか?
三浦さん)はい。もともと、ホタテを使った料理でホタテバターというのは有名ですよね。構想の核として、「ホタテ×バター×醤油」というレシピはありました。ただ、それ以外にどんなレシピがあるのかな?と考えていたんです。
山本)たしかに。美味しいですよね、私も大好きです(笑)。子供も大好きですもんね。
三浦さん)そうですよね。そうした中、「キットブルー※」という組織の代表が僕の所でもやらせてもらえないかと手を上げてくれまして。そこで「杏ダイニング」というレストランのシェフを紹介してもらい、醤油バターのレシピを詰めました。さらに、別の種類も開発したいなと考えていたので、そちらの話も詰めていきました。
※「株式会社キットブルー」…神恵内村・岩内町・泊村の頭文字をとったKITと特徴的な碧い海からBLUEをとった会社。三浦代表の後輩にあたる方が代表を務めている。
山本)そこで“ベシャメルソース”のレシピに繋がったと。
三浦さん)そうなんです。はじめは「ベシャベシャ?なんだそれ?」と(笑)。
山本)響き似てますね(笑)
三浦さん)チーズも使いたいと思っていたので、いろいろと話し合いを続けることで、2つ目のレシピである「ベシャメルソース&チーズ」ができました。肝心の材料は道産にこだわって、紹介や自分の伝手を辿って見つけていきました。
山本)なるほど、多くの方が関わって出来上がったんですね。ちなみに、今回ノーステック財団開発支援に申請したのは「三浦水産」としてではなく「小樽海人(かいと)」としてだったようですが、どのような経緯で?
三浦さん)「小樽海人」は小樽商工会議所内で海産物に関連する会社が集まってできた、小樽を盛り上げていこうという組織です。これがパンフレットです。
山本)各社それぞれが異なるタイプのニシン漬を作っているんですね。
三浦さん)はじまりはここからでした。各社がそれぞれのレシピでニシン漬をつくればいいじゃないかと。「松前漬け」のような形で小樽の名産品を作るぞという活動でした。ただ、小樽海人として何か今後1つの商品を作っていきたいねという話が挙がりました。
山本)おお!そうした背景と今回の三浦代表の構想…。
三浦さん)ええ(笑)。「Hotate de PON」の構想を温めていたので、一人でやるのではなく、小樽が盛り上がればという想いで、今回は小樽海人として申請させて貰いました。
山本)三浦代表の小樽への思いがひしひしと伝わってきますね。
三浦さん)ウチ以外からも様々な商品を開発していきたいのですが、コロナウィルスの影響もあってスムーズな運営が行えていないのが現状です。今後の商品開発に期待してください。
開発で大事なものは「感性」と「オンリーワン」
山本)ここまでお話をお伺いして、本当に地元への強い想いを感じました。実際に三浦代表が開発をする上で一番大事にしていることは何ですか?
三浦)「感性」と「オンリーワン」です。
山本)おお!その想いが多くの新商品を生み出すに至っているのですね。
三浦)売れるか売れないかは分かりませんが、こんなものがあったらいいな、これだったらウチでこうして作れそうだなといつも考えています。先代からも「人マネではないこと」こそ競争に負けない極意だと教わりました。
山本)確かに。だからこそ、これだけの歴史を持って小樽の地で事業を続けていらっしゃるわけですね。
三浦)たとえば同じ数の子を作るにしても、どう頑張っても大手には値段では勝てない。ただ、味や品質の勝負であれば絶対に負けないぞと。「Hotate de PON」に関しても確かに値段としては高いと言う意見もあります。ノーステック財団さんのアンケート結果もいただきました。ただ、購入をご検討している皆様には、そうしたこだわりが詰まった商品だと伝えたいし、伝わったらありがたいと思います。
山本)ライズ北海道としても三浦さんの想いをしっかり発信していければと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
『地物・感性・オンリーワン』
<結語>
小樽の地を愛し、小樽のこれからを語る三浦代表。
何度も「手に取るお客様が」とお話する姿と、「品質」に対するこだわりは取材をする我々も圧倒されました。それだけ、最高の品物をお客様に届けたいという熱意―。
SDGs(持続可能な開発)についても取材終了後、お話がありました。
『価格も大切です。ただ、地元を守るという考えを持つことも重要。みんなで、考えていきましょう―。』
大好きな地元への愛情が詰まった「Hotate de PON」。小樽応援の想いとともにご賞味ください。
(ライティング:後藤蓮、編集:後藤蓮、山本純己)
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¥5,400(税込)
企業情報
◆企業名|有限会社 三浦水産
◆住所|小樽市祝津2丁目237番地
◆電話番号|0134-25-7535